もうDIYでいいよ。

羽田空港名作イス 5

羽田空港で見かけるデザイナーズチェアを紹介するシリーズの5回目です。

 

下画像は、第2ターミナル2Fにある『アルボリズム・シリーズ 』のイス越しに眺めたイギリスの紅茶専門店

『フォートナム・アンド・メイソン』羽田空港店。(このイスは下で紹介します)

フォートナム・アンド・メイソンのブランドカラーである『オー・デ・ニール(ナイルの水)』の薄めのヒスイ色と

白のアルボリズム・シリーズのフラクタルによる樹木表現が面白い対比を見せています。

ただ、残念なことに、ここでもデザイナーズ・チェアの撤退が始まっています。

ヨナデンの記憶に間違いがなければ、以前はこの場所に、もっと多くのアルボリズム・シリーズのテーブル・

イス・バーテーブルなどが並び、全体で白い林のようなイメージを醸し出していましたが、2014年9月現在、

その数が半減して少し寂しくなっています。

 

 

 


Trioli (トリオリ)
Eero Aarnio/第2・3F/UpperDeckTokyo

フィンランドのデザイナー、エーロ・アールニオ(Eero Aarnio)の名作イスといえば、白い球体が特徴の

『ボール・チェア』が有名ですが、一方で彼は、とてもカワイイ子供用イスをたくさんデザインしています。

例えば、高さが80cm程度ある鳥型の『ティピィ( TIPI)』(▽2)。見方によってはロバにも馬にもカエルにも

見える高さが90cm程度の『ポニー(PONY)』(▽3)。ヨナデンが好きな犬型の『パピー(Puppy )』(▽3)は

高さが35cm~80cmの4タイプあります。どれも子供が馬乗りで遊べる楽しいアイテムで、大人でも欲しい

モノですが、 TIPIやPONYはファブリック仕上げで正規メーカーで30万~40万円、ポリエチレン一体成型

のPuppyでも一番大きなタイプで6~7万円程度はするので(2014年9月現在)、簡単には買えないシロモノ

です。なお、これらのイスにも中国製のリプロダクトが存在して安価なものがありますが、エーロ・アールニオ

は現役のデザイナーですので、著作権が本当に切れているのか疑わしいとヨナデンは思っています。

もちろん著作権が切れていなければ、それはリプロダクト品ではなくて、単なるイミテーションです。

このイス、『トリオリ(Trioli)』は、『3人組』の意味で、文字通り3通りの使い方ができる優れもののイスです。

上画像は取っ手を上側にして置いていますが、これを上下逆さまにして置きなおせば、坐面の高さが

高くなります。また、伏せて置くと、取っ手を持って馬乗りができる鞍(くら)タイプに早変わり(△1)。

トリオリは、上の犬型のパピーと同じく、イタリア・マギス社(MAGIS)の子供向け製品プロジェクトである

『Me Too Collection』のためにエーロ・アールニオがデザインしたキッズ・チェアです。ポリエチレン一体

成型で屋外使用も可能です。

 

 

 


Tropicalia (トロピカリア)
Patricia Urquiola /第2・3F/UpperDeckTokyo

前回の記事で(No.22)、スペイン生まれで主にイタリアで活躍している女性インダストリアルデザイナー、

パトリシア・ウルキオラ(Patricia Urquiola)のハンギング・チェア、『Maia Egg Swing(マイア・エッグ・

スイング)』を紹介しましたが、このイスも同じパトリシアのデザインでイタリアのソファ・メーカー、モローゾ社

(MOROSO)から販売されています(マイア・エッグ・スイングの方はスペインのケタル社製)。

モローゾ社は1952年にイタリア北部の都市ウディネで設立された家具メーカーで、パトリシアの他、次に

紹介するイギリスで活躍しているインダストリア・デザイナー、、ロン・アラッドなど著名なデザイナーによる

家具を世界に送り出しています。

このイスは、パトリシアによる『トロピカリア・コレクション』のひとつで、彼女が得意とするリゾート的な解放感、

自然との触れい、モダンかつフェミニンな色使いなど、南国の雰囲気にあふれた作品になっています。

 

 

 


LITTLE ALBERT (リトル・アルバート)
Ron Arad/第2・3F/UpperDeckTokyo

イスラエル・テルアビブ生まれで、イギリス在住のインダストリアル・デザイナー、ロン・アラッド(Ron Arad:

1951~)が、イタリアのソファ・メーカー、モローゾ社(MOROSO)のためにデザインした『ビクトリア・アンド・

アルバート』シリーズ家具の中の一点です。

大英帝国全盛期の女王ビクトリアと夫君アルバート公の名を冠したこのシリーズは、モダンで優雅かつ

大胆な曲線が特徴の大型ソファ、一人掛けイス、ハイテーブルなどから構成されています(▽3)。

一人掛けイス『アルバート』は数タイプあり、『リトル・アルバート』はその中でもコンパクトなタイプですが、

特に子供用というわけではありません。

ロン・アラッドは、このイスのような彫塑的でマッシブな形状のデザインが得意で、同じくモローゾ社から

販売されている『ビッグ・イージー』(△2)、イタリア・ドリアデ社(Driade)の『クローバー』(△1)などが

有名です。

『リトル・アルバート』はポリエチレン素材の一体成型で、回転成型(金型を回転させて素材皮膜を均等

に形成する工法。射出成型に比べ小ロットの生産に向き、回りこんだ細かい部分の成形にも優れる)に

より継ぎ目のないディテールを実現しています。また、屋外でも使用可能です。

 

 

 


Ami Ami  (アミ・アミ)
吉岡徳仁/第2・3F/UpperDeckTokyo

吉岡 徳仁(よしおか・とくじん)のデザインとして、ヨナデンが最初に思い浮かべるのは、2000年に発表

された衝撃的な照明器具『ToFU(トーフ)』(▽2)です。磨かれたアクリルブロックとハロゲンランプだけの

潔い構成は、フィンランドのデザイナー、ハッリ・コスキネン(Harri Koskinen)の『ブロック・ランプ(1998)』

とともに、当時の卓上照明具の概念を変えるインパクトを持っていました。

現在、ToFUは光源をLEDに換え、灯具をすべてアクリルに埋込むという吉岡の初期イメージに近い形に

進化しています(▽2はLED型)。

このイス、Ami Ami は、イタリアのカルテル社(Kartell )のために吉岡がデザインしたポリカーボネート素材

による一体成型のイスで、一体成型とは思えないリアルな編み目が再現されています(▽1)。

情報サイト、イズムの記事『カルテルから吉岡徳仁デザイン「AmiAmi」が登場』(2011/11/11)によると、

『デザインの段階で、初めは幅広で透明のビニールを編んでアイデアを練って』いたこと、『着想から

デザインまでが2年、金型ができるまでには1年半。合計3年半』かかったことを、デザイナーご本人が

明かしています(△3)。

 

 


 Arborism Chair (アルボリズム・チェア)
 NOSIGNER/第2・2F/出発ロビー

NOSIGER(ノザイナー)は、太刀川英輔(たちかわ・えいすけ:1981~:▽1」)率いるデザイン・ファーム。

横浜を拠点に、地場産業復興・新興国支援などのデザイン・コンサルティングに優れた実績をあげている

デザイン集団です。NOSIGERの名称は、もともと太刀川が慶應義塾大学大学院在学中にデザイナーと

して活躍していた頃の個人的なデザイナー名で、有名になれば個人名自体が商業ブランド化してしまう

designerでなく、『自身は無名でも、無形の価値を見出す者でありたい』 という意味がこめられています。

太刀川のNOSIGERにこめたコンセプトは、例えば東日本大震災直後に立ち上げた被災地の生活支援の

ためのwiki、『OLIVE(オリーブ)』を見ると分りやすいかもしれません。

アルボリズム・シリーズは、多様なタイプがありますが、空港で見られるのは『ヘクサゴン』という六角形の

テーブルとイス3脚のセット(△3)がほとんどです。その他、背丈のあるバー・テーブルも見られます。

各アイテムに共通しているのが、脚基部の枝分かれの部分(△2)。フランスの数学者マンデルブロによる

幾何学原理、フラクタルの枝分かれアルゴリズム(樹木曲線)に従った美しいシルエットの脚部です。

ヨナデンが、このアルボリズム・シリーズで唯一残念に思うのは、その軽やかな外観から想像できない重さ

です。自動車の下塗りに使用されるカチオン電着塗装後、ポリエステル粉体塗装を施したフル・スチール

の本体は意外に重く、特に座る時・立つ時に動かす必要の多いイスについては、『重い。持ち難い』という

声を利用者から聞きました。

 

 

以上、最後まで読んでくださってありがとうございました。

 

※名作イスのリプロダクト品は、市販価格に大きな差があります。記事中の価格はあくまで参考です。

価格差については、『ネット買いバウハウス 2』 を参照のこと。

※イス・タイトルの『第2・3F/UpperDeckTokyo』は、羽田空港・国内線・第2ターミナル(ANA側)・3階

のフードコート、 UPPER DECK TOKYO(アッパー・デッキ・トーキョー)を示します。

  『羽田空港名作イス 1』 (羽田空港で見かけるデザイナーズチェアを詳しく紹介1回目)

  『羽田空港名作イス 2』 (羽田空港で見かけるデザイナーズチェアを詳しく紹介2回目)

  『羽田空港名作イス 3』 (羽田空港で見かけるデザイナーズチェアを詳しく紹介3回目)

  『羽田空港名作イス 4』 (羽田空港で見かけるデザイナーズチェアを詳しく紹介4回目)

  『このイス、どこに置く?1』 (第1話【ハイバックチェア『ヒルハウス』のオリジナル位置】)

  『このイス、どこに置く?2』 ( 第2話 【邸宅ヒルハウスの寝室の双子のイス物語】)

  『このイス、どこに置く?3』 (第3話 【『レッド・アンド・ブルー』と『ヒルハウス』を比べる】)

  『このイス、どこに置く?4』 (第4話 【『ヒルハウス』の美しさのヒミツを構造から読み解く】 )

  『聖ヒエロニムス謎の書斎』  (名画『書斎の聖ヒエロニムス』の謎の書斎に迫る)

  『雲形文様がなんか好き』  (雲形文様にまつわる話いろいろ)

  『掌(てのひら)の指輪』 (手のモチーフにまつわる話いろいろ)