羽田空港名作イス 3
羽田空港で見かけるデザイナーズチェアを紹介するシリーズの3回目です。
前回記事で、『‥‥名作イスのアーカイヴとしての管理はしていない状態ではないでしょうか。
単なる商業施設という扱いなら、次の第2ターミナルのリニューアルで、このイスのコレクションが
一掃されてしまう可能性もあります』 と書きましたが、その心配が深まる事態になってきました。
これは、つい最近の画像なんですが、
名作イスと並べて普通のパイプイスが、どんどん増やされているのです。
ここが普通のフードコートになるのも、時間の問題かもしれません。
このシリーズ記事も、できるだけ 急いで記録に残そうと思っています。
GRANDCOMFORT (グランコンフォール)
Le Corbusier/第2・3F/Discovery Museum
近代建築の巨匠、ル・コルビュジェ(Le Corbusier :1887~1965)のソファとしてあまりにも有名なLC2
シリーズのうち、2人掛け・3人掛け用ソファが10脚近く並んでいて、ゆったりと座り心地を楽しめます。
『グランコンフォール(grand comfort:グランド・コンフォート:大きな快適)』 と名づけられたこのソファには、
座面が一体化し、よりラグジュアリー感のあるLC3シリーズもありますが、やはりオリジナルに近いLC2の方
が、コルビュジェらしいデザインを楽しめる気がします。
コルビュジェのイスには、肘掛け部分の革のベルトが特徴的な1人掛け用イスのLC1、リクライニングタイプ
(シェーズロング)で、グランコンフォールと同じくらい有名なLC4などがあります。
このソファが置いてある『羽田空港美術館(ディスカバリー・ミュージアム) 』は、Upper Deck Tokyo
の南端にあるギャラリータイプの美術館(△1)で、東京・目白台にある細川家の美術品を管理している
『永青文庫(えいせい・ぶんこ)』(△2)のコレクションを中心に展示がされています(△3)。
入場は無料で、『写真撮影が可(フラッシュ除く)』なのが画期的です。
実は、ヨナデンは以前、この永青文庫(文京区目白台関口)のすぐ近くに住んでいました。このあたりは
旧細川家の広大な所領の一部で、以前はフォーシーズンズホテルだった『ホテル椿山荘東京』のある
『椿山荘』、東京の大学の男子寮として歴史ある『和敬塾(わけいじゅく)』など、緑を残した奥ゆかしい
施設が点在していて、ヨナデンが最も好きな東京の地域のひとつです。
S – Chair (S・チェア)
Tom Dixon/第2・3F/UpperDeckTokyo
トム・ディクソン(1959~)は、チュニジア生まれ、イギリス育ちのデザイナー。クラブDJ、パンクバンドの
ベーシストなど異色の経歴を持つ彼のセンスは、2005年から2010年まで原宿の名所となったコンセプト
ストア、Tokyo HIpsters Clubの設計にも生かされました。
このS・チェアは、 おそらく、イタリア・カッペリーニ社(Cappellini)のStraw素材のもの。
このイスは表面のファブリックに様々なバリエーションがあって、素材によって驚くほどイスの表情が違って
見えます。ただ、中身は、全て頑丈なスチール・フレームによるカンチレバー構造です。
上の画像のイスは、少しフォークロア調の雰囲気がありますが、もっとシャープでモダンなタイプもあります。
Meteor(メテオ)
Arik Levy(for Serralunga)/第2・3F/UpperDeckTokyo
上画像右の銘板にある『SERRALUNGA』とは、イタリア有数のガーデン・ファーニチャー・メーカーである
セラルンガ社(Serralunga)のことです。セラルンガ社は、1825年にイタリア北部、アルプスの南麓の都市
ビエッラで設立されました。フラワーポットが主な製品ですが、このような家具に近いデザイナーズ・ベンチ
にも力を入れています。
メテオ(隕石)という、この印象的なベンチをデザインしたのは、パリを拠点に活躍するイスラエル・テルアビブ
出身のデザイナー、アリック・レヴィ(Arik Levy:1963~)。このベンチは、照明器具としてもデザインされて
いて、特に、薄乳色タイプのメテオは、夜になると神秘的に発光する仕様にすることもできます(△1・2・3)。
Eames Lounge Chair (イームズ・ラウンジチェア)
Charles & Ray Eames/第2・3F/UpperDeckTokyo
タグを見るのを忘れてしまいましたが、ハーマンミラー社の正規品で、ジェネリック品ではないと思います。
イームズ夫妻の友人であったハリウッドの映画監督、ビリー・ワイルダーから依頼されて、リビング用のイスと
して作成されたもので、『よく使い込まれた一塁選手のグローブのような暖かさ』があるようにデザインされた
といわれています。
このイスはオットマンとセットで語られることが多く、実際、オットマンとの組み合わせが、 これほど完璧に
見えるイスは他にないように思います(△3)。しかし、その完璧さゆえに、ヨナデンはあまりこのイスが好き
ではありません。貧乏性のヨナデンには、このイスに成功者の業(ごう)のようなオーラを感じるのです。
ともかく、、このイスのデザインが1956年に行われたことが革新的であったことは間違いなく、例えば、
ヘッドレストを支える『構造が外から見える』処理を行いながら、優雅さや上質感を失わない手腕は、特筆
すべきものがあります(△1・2)。
バタフライ・スツール
柳 宗理/第2・3F/UpperDeckTokyo
天童木工による成形合板技術と柳宗理のデザインが結実した1950年代のジャパン・デザインの名作。
同じ型の2枚の成型合板を、2本のボルトと1本の金属棒で組み合わせた極めてシンプルな構造ですが、
実際に座ってみると、剛性はかなり高いことがわかります。
和室にも洋室にも、また屋外でも違和感なく馴染みますが、特に、畳の上でも使用できるようにと考案され
ており、畳を傷つけないように、床と接する脚の端は柔らかなラウンドで構成されています。
柳宗理(やなぎ・そうり:1914~2011)は、戦後日本を代表するプロダクトデザイナー。本名は同じで、
読みが(やなぎ・むねみち)。日本民芸館館長。金沢美術工芸大学客員教授。
ヨナデンにとっては、柳宗理は、キッチンツールのデザイナーとして、日々、身近な存在であります。
以上、最後まで読んでくださってありがとうございました。
※名作イスのリプロダクト品は、市販価格に大きな差があります。記事中の価格はあくまで参考で、いわゆる
『正規保障』については考慮していません。価格差については、『ネット買いバウハウス 2』 を参照のこと。
※イス・タイトルの『第2・3F/UpperDeckTokyo』は、羽田空港・国内線・第2ターミナル(ANA側)・3階
のフードコート、 UPPER DECK TOKYO(アッパー・デッキ・トーキョー)を示します。
同じく『第2・3F/Discovery Museum』は、羽田空港・国内線・第2ターミナル(ANA側)・3階の羽田
空港美術館(ディスカバリー・ミュージアム) を示します。
『羽田空港名作イス 1』 (羽田空港で見かけるデザイナーズチェアを詳しく紹介1回目)
『羽田空港名作イス 2』 (羽田空港で見かけるデザイナーズチェアを詳しく紹介2回目)
『羽田空港名作イス 4』 (羽田空港で見かけるデザイナーズチェアを詳しく紹介4回目)
『このイス、どこに置く?1』 (第1話【ハイバックチェア『ヒルハウス』のオリジナル位置】)
『このイス、どこに置く?2』 ( 第2話 【邸宅ヒルハウスの寝室の双子のイス物語】)
『このイス、どこに置く?3』 (第3話 【『レッド・アンド・ブルー』と『ヒルハウス』を比べる】)
『このイス、どこに置く?4』 (第4話 【『ヒルハウス』の美しさのヒミツを構造から読み解く】 )
『聖ヒエロニムス謎の書斎』 (名画『書斎の聖ヒエロニムス』の謎の書斎に迫る)
『雲形文様がなんか好き』 (雲形文様にまつわる話いろいろ)
『掌(てのひら)の指輪』 (手のモチーフにまつわる話いろいろ)