もうDIYでいいよ。

quay兄弟:造形のナゾ 1


ヨナデン宅にあるクエイ兄弟と
ヤン・シュヴァンクマイエル資料

この他にもVHS・DVD・冊子が
ある。VHSはもう見れないのに
捨てられない。

 

 

 

 

 

 

模型などの立体を、1コマ毎に少しずつ動かしてカメラで撮影し、映像作品にするストップモーション・アニメの作家では

チェコスロバキア・プラハが生んだ鬼才、ヤン・シュヴァンクマイエルが有名ですが、アメリカ人でありながら東欧の古い

ディテールを魔法的な密度で描き出す、スティーブンとティモシーの双子の兄弟、ブラザーズ・クエイ(Brothes Quay)の

作品も忘れがたい魅力があります。

 

彼等の造形は、今もインテリア系アートで引用されることが多く、今後もそうだと思いますので、知ってソンは無いはず。

 

今回は、クエイ兄弟の映像が一番輝いていた1980年代中頃の作品を紹介しながら、その造形の源泉を探ります。

クエイ動画はYouTube にもありますが、映像が最も鮮明なニコニコ動画の投稿動画を貼っています。

 


『ヤン・シュヴァンクマイエルの部屋』(1984年)

 

動画が視聴不可になりました。申し訳ありません。
しかし、本文は参考画像を入れていますので、お読みになるのに支障はありません。

 

イギリスのテレビ局 Channel 4 の番組で、ヤン・シュヴァンクマイエルを特集したドキュメンタリーの映像の一部を

クエイ兄弟が担当したもので、後に独立した作品となりました。

兄弟が、かねてから敬愛し影響を受けてきたシュヴァンクマイエルがテーマであるだけに、先生(シュヴァンクマイエル)

の技能や知識・ユーモアへのリスペクトに満ちた内容になっており、同時に先生からレッスンを受けながら成長していく

教え子(クエイ兄弟)の幸福な物語にもなっています。 クエイ作品でこれほど ほのぼの したものは珍しいと思います。

 

 

 

 

 

 

 

博物倉庫での先生と教え子

教え子の頭は、雑念を取り除かれて
空状態だが、最後に先生から一巻の
書物を頭頂に授けられて旅立って行く。

 

特にヤン・シュヴァンクマイエルの作品のなかでも、『自然の歴史(組曲)』(1967年)へのオマージュが強く、

16世紀の幻想画家アルチンボルドの絵が引用されています(最初の市電の見える部屋の背景にある大きな

人物画は、晩年の傑作『ウェルトゥムヌスに扮するルドルフ2世』)。

なにより、先生の容姿自体が、アルチンボルドの『司書』(1566年)の引用です。ただし、映像の『先生』は、

もっとメカニカルで、内部の歯車を動力にしているようだし、手が烏口(カラスグチ)になったコンパスの腕を

持っています。このカラクリ人形のイメージは、後の『ストリート・オブ・クロコダイル』でより深く追求されました。

 

 

 

 

 

 

 

『司書』/ジュゼッペ・アルチンボルド

アルチンボルド(1527~1593)は、ミラノ
出身。『司書』(1566年)は、ウィーンで宮廷
画家になった頃の作品。

 

『ヤン・シュヴァンクマイエルの部屋』で、もう一つ印象的なのは、音楽と映像が絶妙に同期していることで、これも

『自然の歴史(組曲)』と似ています。音楽自体、ヤン・シュヴァンクマイエル作品では欠かせないズデニェク・リシュカ

の原曲で、『自然の歴史(組曲)』で使われたメヌエットやポルカが編曲されました。

 

 


『ギルガメッシュ/小さなほうき』(1985年)

 

動画が視聴不可になりました。申し訳ありません。
しかし、本文は参考画像を入れていますので、お読みになるのに支障はありません。

 

不思議な綿毛のようなものが降り積もる暗い森。その上空に浮かんでいる筒状の立方体のような建物が目を引きます。

 

 

 

 

 

不思議な建物の内側

鋏(はさみ)の金属製の看板や
電線の支持体のような造形…
こういう薄汚れた造形物は
クエイ兄弟の映像ならでは。

 

トンネル状になった建物の内側に様々な仕掛けが施されていて、鋏(はさみ)やドリル・小さなギロチンなどが作動している

のを見ると、不穏な目的でこの廃墟のような建物が作られたのではないかという漠然とした不安がよぎります。

中空を3本の電線が貫通していて、なぜか焦げたテニスラケットが引っかかっています。この電線も凶器であることが、

動画の途中で明らかになります。

この建物の中を、三輪車に乗った子供のような人物が走り回っています。

 

 

 

 

 

三輪車に乗ったギルガメッシュ

彼に悪意があるのか、ないのか、
この建物に閉じ込められているのか、
暮らしているのか、一切が謎である。

 

 

タイトルからすると、この人物がギルガメッシュなのでしょう。ギルガメッシュ叙事詩によれば、シュメールの都市国家ウルク

の王であった彼は暴君ぶりが災いして、刺客として神から送り込まれた獣人エンキドゥと戦うことになり、後に両者は和解し、

親友同士となった、とあります。

獣人エンキドゥは、ギルガメッシュと戦う前に、女体に誘惑されたとの物語もありますので、そのあたりのストーリーが映像の

モチーフとして影響しているのかもしれません。

しかし、ギルガメッシュ叙事詩との関係でこの映像を理解しようとしても無理があります。なぜなら、クエイ兄弟の映像は意味

が判らないように、あらかじめ作ってあるとしか思えないからです。克明に動作やイメージは描写してあるけれど、肝心な『何

をしているのか』は永久に判らない、そういう映像なのだとしか言いようがありません。

 

『何をしているのか』などといった説明的なことは重要ではないと、クエイ兄弟は考えているのではないでしょうか。

三輪車に乗った人物が、建物の端からコオロギを投げ捨てようとした意図はよくわかりません。しかし、森のはるか上空に

断崖絶壁の舞台のように存在する床のヘリから見下ろす時、吹き付ける虚空からの風の感覚は画面から伝わってきます。

そういう感覚さえ、見る人に伝われば、ストーリー的なことは別にかまわないとクエイ兄弟は考えているような気がします。

 

そういう永久に判らないものを演出する上で、重要なのはキャラクターの造形です。『いったい何処からこんなのモノが

生まれたのか?』と思わせるような、出所不明のキャラが登場する所以(ゆえん)です。

 

三輪車に乗ったギルガメッシュも本当に不思議なキャラクターですが、これについては、ほぼ間違いないと思われる

引用元が判明しています。

スイスの精神医療施設の患者で、アウトサイダー・アーティストとして知られている、ハインリヒ=アントン・ミュラー

(Heinrich‐Anton Mueller:1865~1930)が残した素描、『ダルシュおじさん、豚を市場に連れてゆく 大きなシクラメン

永遠に 自動車 蔦 ゴム 僕の豚はラフィという名前』 です。

非常に長い題名ですが、アントン・ミュラーが残した素描にタイトルが付いているワケではなく、上の画像にある

ように、素描の中に書かれた言葉を、後にそのまま題名にしたものです。

アントン・ミュラーの人物が乗っているのは二輪の自転車ですし、服なども特に特徴はありませんが、顔の輪郭

は驚くほど一致しています。

アントン・ミュラーは、ワインの醸造家として、ブドウ剪定機械の特許を取得するほど、優れた技術的才能を

持つワインメーカーだったのですが、その特許を盗用されたことをきっかけに鬱病となり、症状が悪化して、

スイスのミュージンゲン精神医療施設で、延々と不思議な木の機械を作り続けるという不幸な人生を送った

人でした (ART BRUT COLLECTION IN LAUSANNE)

そういう過去を知って見るからか、アントン・ミュラーの素描に現れる人物は、どこか孤立していて、部外者に

警戒の目を向けているように見えます。

クエイ兄弟が、アントン・ミュラーの素描を見たとき、いったいどのようなインスピレーションが働いたので

しょうか。 生前のアントン・ミュラーには思いもよらない引用のされ方だったのかもしれません。

しかし、芸術家同士の何らかの直感は、確かにリレーして、この『ギルガメッシュ/小さなほうき』に結実

したように思うのです。

 

 

最後まで読んでくださってありがとうございました。

『クエイ兄弟:造形のナゾ 2 』も、ご覧ください。

 

 

  『『クエイ兄弟:造形のナゾ 2 』(名作『ストリート・オブ・クロコダイル』の造形に迫る)

  『時空のおっさん仮説』(都市伝説『時空のおっさん』の正体に迫る)

  『聖ヒエロニスム謎の書斎 』(名画『書斎の聖ヒエロニムス』の家具の謎に迫る)

  『バロ:謎の駆動式住居』  (女流画家レメディオス・バロが描く不思議な移動住居)

  『方丈庵を解体する 』  (京都・河合神社の方丈庵レプリカ の構造を詳しく観察)

  『方丈:移動可能という夢 』  (方丈庵はこうして移動?庵のインテリアにも原典から迫る)

  『アトムスーツと太陽の子』(造形作家ヤノベケンジのモニュメントと放射能)