もうDIYでいいよ。

アトムスーツと太陽の子

 

 

2012年7月のスケッチは、造形作家ヤノベケンジさんの巨大モニュメント『SUN CHILD』です。

(以下敬称略)

ヤノベケンジは、1991年の美浜原発事故以来、ユニークな放射能防護服とともに、放射線を

視覚化・意識化する作品を制作してきました 注1) 。

 

1997年、ヤノベは、完成した放射線感知スーツ『アトムスーツ』を携えてチェルノブイリを訪問

します。その頃の展覧会をヨナデンは見ていますが、目に見えない放射能の不安な感覚は

あったものの、会場のガイガーカウンターが時々カウントする自然界の放射線を、面白がって

見た思い出があります。

 

今となっては、我ながら、『愚かにも』という言葉がぴったりなのですが、愚かにも凡人であった

ヨナデンは、当時すでに顕在化しており、ヤノベのような鋭敏な芸術家が身体的恐怖として実感

していた放射能の脅威を、2011年3月11日が来るまで、分かっていませんでした。

 

 ヤノベは、その作品のテーマを、このようなダークサイドの新世紀を生き残る(サバイバル)ための

装置として製作してきたのですが、やがて、自分だけが生き残るのではなく、地域とそこに住む人々

皆が再生する(リバイバル)ためのシカケ作りに、そのテーマを発展させていきます 注2) 。

その最新作が、タイトル画像の高さ6.2mのモニュメント『SUN CHILD』です。

 

『SUN CHILD』を説明するのに、ちょうど良い動画がありますので紹介します。

    

 この動画は岡本太郎生誕100年を記念して、『SUN CHILD』を万博公園の太陽の塔と並べて、

また、岡本太郎記念館の中庭に展示するプロジェクトのために製作されたものです。
 

 動画の後半に『SUN CHILD』の製作過程がでてきますが、右手に太陽の形をした

造形物を載せています。これは、リバイバルがテーマとなったヤノベの作品によく登場

する再生の象徴です。モニュメントのこの部分にはネオン管が仕掛けてあって夜になると

発光します。

 

 

この太陽の原型となったものが、廃墟となったチェルノブイリの保育園の壁面に描かれて

いた太陽の顔であることは有名ですが、。ヤノベのチェルノブイリ訪問には、もう一つ、

『SUN CHILD』を説明するのに重要なエピソードがあります。それは、”アトムスーツの

ヘルメットを脱いで生きていく”ということです。放射能に対する危機意識をアピールする

ためアトムスーツを脱ぐまいとしていたヤノベは、強制退避区である原子炉から3kmの

村で普通に暮らす村人に衝撃を受け、その村人のひとり、3歳のバクダン君がくれた

チョコレートを食べるためにヘルメットを脱ぎます 注3)。 この経験は、生き延びるのに、

アトムスーツに固執することだけが有効なのかという根本的な問題意識へと発展し、

やがて新たなテーマ『リバイバル』を生むことになります。

 

 

現在3体ある『SUN CHILD』のうち1体は、2011年3月11日から、ちょうど1年後の

2012年3月11日、大阪府茨木市の阪急南茨木駅前に恒久設置されました 注4) 。

 

    

 

 2011年3月14日、福島原力発電所の3号機が爆発した時、ベランダで育てていた

ミント・バジル・シソなどの家庭菜園がすべてダメになることを、とりあえず覚悟しました。

前に述べたようにヨナデンは、危機意識のない人間ではありましたが、あの時点で、東京に

かなりの量の放射性降下物があること、その中に放射性セシウム・ヨウ素などがあること、

コンクリートで外部からの放射線は防げるが、怖いのは体内に取り込んだ場合の内部被爆

であることを知っていました。それは、たまたま読んでいたこの本のおかげでした。

             

   『東京に核兵器テロ』 
   浜田純 (札幌医科大学教授)
   講談社 2004

 

本書は、タイトルがいかにもセンセーショナルですが、内容は放射線防護の専門家が書いた

学術的なもので、フォールアウト(放射性降下物)を避ける方法が具体的に書かれています。

その時は、放射能の危険が身に迫るとすれば、それは核兵器テロだと考えていたのです。

 

それが、何重にも安全対策が施されていると信じていた原発事故によってもたらされました。

 

とうとう放射能とともに暮らす新世紀がやってきてしまいました。

思えば、リドリー・スコットが、放射能雨と酸性雨のそぼ降る2019年のロサンジェルスを、映画『ブレード・

ランナー』で描いたのが、1982年でした。

それから30年が経ち、

だれも望まないのに、不吉な既視感だけはあるダークサイドの新世紀が現実化しつつあります。

日本中の大人が負担しても、子供には絶対負担させるわけにはいかないダークサイドの新世紀です。

いまこそ、自分にとっての、日本にとっての『リバイバル』を考える時だと思います。

 

 

  『来ないバスを父と待てば』 (バスが来ないバス停・父の思い出)

   『時空のおっさん仮説』 (都市伝説『時空のおっさん』の正体にせまる)

  『セレンディピティ仮説』 (セレンディピティとは本当はどんな能力なのか)

 

  注1) 『チェルノブイリ訪問契機に制作、ヤノベケンジが感知・発信する”大地のアンテナ”展』  CINRA.net

  注2) 『ヤノベケンジ インタビュー』 Clippin JAM

  注3)『【Monogragh】胸さわぎの熱い夏を満喫するために(3)』  KENJI YANOBE Archive Project

  注4)『サン・チャイルドについて』 ようこそ!サン・チャイルド/茨木芸術中心