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このイス、どこに置く?4

 

第4話【『ヒルハウス』の美しさのヒミツを構造から読み解く】

 

『このイス、どこに置く?』シリーズは、建築家C.R.マッキントッシュの

ハイバック・チェア、『ヒルハウス』を特集しています。

今回は、巷に数あるハイバック・チェアの中、『ヒルハウス』がひときわ

優雅である理由について、その構造から解明してみたいと思います。

 

構造的な理由とは、次の2点です。

①軽いこと。普通ハイバック・チェアは結構重い。装飾的なアレコレを

廃して、必要最小の線材で構成されている。でも機能一辺倒でなく、

いわば、装飾が構造そのものになっている。

②線材の扱(あつか)いが尋常じゃないレベル。直線と平行線だけで

構成されているように見えながら、実は純粋な直線の平行部位は

ほとんどなく、絶妙なカーブや傾きが優美さを生み出している。

 

それぞれ具体的に見ていきましょう。

 

 

理由その1: 軽い。装飾が構造そのものになっている。 

『ヒルハウス』のモダンなセンスを目にすると、マッキントッシュが世紀末のアールヌーボー期の芸術家であることを

つい忘れがちになりますが、彼は、下の画像のような装飾的で美しいハイバック・チェアも多数作製しています。

左端のグラスゴーにあるウィロウ・ティー・ルームは、マッキントッシュがデザインした当時のインテリアのまま、

今も営業していて、ヨナデンもこのイスに座ってお茶をいただきましたが、このイスの重量感といったら‥。

だいたい、ハイバック・チェアとは重たいもので、『ヒルハウス』の3kgというのは、例外的な軽さだと思います。

なにしろ片手で軽々と持ち上げて移動できるんですから。それでいて、高さは140cmもあります。

どうしてここまで軽く作られているかといえば、まったく装飾のない線材だけで構成されているから、というより、

もともと意匠(装飾)として出発したはずのグリッド(格子状)モチーフが、それ自体が構造体となるまで極限まで

処理されているからです。

しかも、その線材が、剛直な直線ではなく、まさに『直線のアールヌーボー』と呼ぶにふさわしい、デリケートな

処理を施されていて、直線だけではありえない優雅さを実現しています。それについては、理由2で触れます。

 

 

理由その2: 線材の扱(あつか)いの絶妙さが尋常じゃないレベル

『ヒルハウス』を見ると、格子と梯子(はしご)状の背板を支える140cmある平行の2本の支柱が目立ちますが、

この支柱は、厳密には平行ではありません。下の図面は、フィリッポ・アリソンによるオリジナルの実測調査図面

(『現代の家具シリーズ1マッキントッシュの家具/1978』)をもとに、ヨナデンのレプリカも参照してトレースしたもの

ですが、図面で明らかなように、支柱は上に行くほど先細りになっており、その断面を比較すると(断面は楕円)、

先端部では、基底部の半分以下の断面積となっています(長径比較で、30mm⇒20mm/ヨナデン・レプリカ)。

また、支柱はわずかな角度で後方に倒れており、この、ほとんど意識させない傾斜・先細りのシルエットが、垂直な

平行直線材の構成ではありがちな頭にのしかかるような威圧的な見た目感を取り除き、すっきりと軽やかな印象を、

このイスに与えています。

 

さらに、支柱の構造は、このイスの優美さの重要なエレメントである背面の微妙なカーブと密接に関係しています。

2本の支柱が、互いに後方に向かって開いた形で対峙していることから、合理的に整合されている背面の微かな

カーブは、直線的なこのイスの表情に、あるかなきかの優美さを付け加え、その繰り返しのリズムによって、

全体的な繊細さを決定づけていることは明らかです。

 

そして、もうひとつ重要なのが、座面を支えている前脚です。

正面図を見るとよくわかりますが、下になるほど太くなる支柱とバランスをとるように、前脚は下に行くほど先細りになって、

そのせいで、このイスは基部で鈍重な感じにならず、端正なシルエットを崩しません。

 

総じて、これらの造形的処理に対して、マッキントッシュが注いだ神経の細やかさは驚くべきものがあると思います。

 

最後まで読んでくださってありがとうございました。

 

  『このイス、どこに置く?1』 (第1話【ハイバックチェア『ヒルハウス』のオリジナル位置】)

  『このイス、どこに置く?2』 ( 第2話 【邸宅ヒルハウスの寝室の双子のイス物語】)

  『このイス、どこに置く?3』 (第3話 【『レッド・アンド・ブルー』と『ヒルハウス』を比べる】)

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