もうDIYでいいよ。

掌(てのひら)の指輪

 

 

ちょっと変わった指輪を作ってみました。

 

手のひらの本体は銀で、一部に金箔を貼り、全体をいぶして古色を出しています。

手の甲側に銀ネジを埋め込んで、木製の輪の部分と接合してあります。

 

輪は、『パープルハート』という、メキシコ・南米アマゾン産のマメ科の木材をくりぬいて作りました。

『パープルハート』は、製材してしばらくは茶褐色をしていますが、空気に触れると徐々に、きわめて美しい紫色に

変色していきます。 画像の輪は木肌を削りだしてしまったために茶褐色ですが、これから紫色に変わると思うので、

楽しみです。 材質は堅牢で耐久性があり、ビリヤードのキューなどにも使われています。

 

輪をくりぬくのに、フォスナービット使いました。

フォスナービットがどんなものかについては、『フォスナー・ビットは”できる子”』を、ぜひ読んでみてください。

フォスナービットは、ていねいに木を削るため、削る部分のエッジに割れや欠けが生じることが少ないのです。

もし、銘木で指輪を作ることに興味をもたれたら、下の画像のように、自分の指(薬指・小指)の径にあった

ビットを数本そろえておかれると便利です。  ちなみに上の指輪では径19mm(薬指)を使いました。

 

 

 

さて、今回は、手にまつわる話を、思いつくままにしてみたいと思います。

 

アクセサリーに手のモチーフということですが、日本ではあまりなじみがありませんが、ヨーロッパでは、

そうでもないようです。下の画像は18世紀のイタリアのロザリオですが、モチーフとして手や足が

飾られています。

 

これがキリストの手足であることは、下の拡大画像のように『聖痕』があることから分かります。

ヨーロッパの人にとって、こういう手や足のモチーフに対する違和感の無さというのは、たぶん、

聖人の遺体の一部を、大聖堂の宝物として祭る『聖遺物』の伝統と関係があるかもしれません。

 

 

それとはまた別ですが、『アントワープの手』というのも有名です。

下の画像は、ベルギーのチョコレートの老舗『デルレイ』のチョコレートですが、

この発想は日本人じゃ出ないですよね。

 

ところで、このチョコレートの右端のモチーフ、これは悪者の巨人の手であるアントワープの手のイメージ

ではなく、むしろ赤ちゃんの手のようにカワイイですが、

これを見ると個人的にどうしても思い出してしまう漫画があります。

 

 

若くして亡くなった漫画家であり、かつ江戸文化のすぐれた研究者であった杉浦日向子さんの名作

『百物語』です。

 

この『弐』巻目、其の62話・63話に『手の怪二話』というのがあります。新潮社版から一部引用すると、

 

飛騨のとある山寺の本堂と庫裏(くり)をつなぐ長い廊下でおこる怪異。

という不思議な話です。

杉浦さんは、ポトリと落ちる赤子の掌の鮮烈なイメージだけでなく、読者の足の裏にまで

伝わる触覚を含めた得体の知れない恐ろしさを、わずか2コマで表現し尽くしています。

 

それともう一話。非常に美しい話。

ある商人が松江に逗留中、夜中ふと起きると、向こうに見える土蔵の月に照らされた白壁から、

手が生えているという怪異。

これも、また素晴らしく印象的な怪異ですが、どの話も、『これこれの因縁が実はあって‥』

というような結末は一切ありません。 突然起こって静かに終わる怪異。それを、ただ受け入れる

しかない人間の諦観のような不思議な雰囲気が、『百物語』には漂っています。

 

 

この、『月の光を 掬い取る形で 掌を天へ向け』 というイメージが、実は、最初に紹介した

『掌(てのひら)の指輪』を作るとき、頭から離れませんでした。

どこまで、表現できたかは苦しいところですが(^_^;)

  『雲形文様がなんか好き』  (雲形文様にまつわる話いろいろ)

  『銀のツマミの菓子器』 (男性でも使えるシンプルな菓子器の製作)

  『銀のタグ・プレート(前編)』  (コーヒーフィルターホルダーと銀細工)

  『銀のタグ・プレート(後編)』 (割れたプレートの修復と完成)

  『中世風の書見台を作る』 (リビングに飾る中世の美術書の展示台も兼ねる書見台)