SPACE POD への異常な愛情
毎月1回、『Painter』という描画ソフトで描いたスケッチを投稿しています。
今回は2011年12月のスケッチ。 スタンリー・キューブリック監督の『2001年宇宙の旅』(1968)に登場する
不朽の名作といえる造形物のひとつ、船外作業用スペース・ポッドを、過去のアーカイブ画像を参考に描きこんでみました。
『2001年宇宙の旅』は時々思い出したように見たくなる映画ですが、最近IPhone 4S に搭載された音声アシスタント『Siri』
の応答パターンに、開発者が遊び心でHAL9000ネタを入れたことで話題になり、久々に『2001年宇宙の旅』がマイブーム
になりました。
HAL9000は木星探査船ディスカバリー号のメイン・コンピューターですが、宇宙に放り出された仲間をこのスペース・ポッドで
救出に行ったボーマン船長の帰還を、HALが拒絶する名シーンがあります。
“Open the pod bay doors, HAL.”
“ I’m sorry, Dave. I’m afraid I can’t do that.”
『Siri』はこのネタに付き合ってくれます。
しかも、最後に『アナタの遊びに付き合ってあげたわよ。これで満足?』的な言葉も添えて。
さて、このスペース・ポッドですが、製作されて40年以上が経つ現在でも、いまだ存在しない器具であるにもかかわらず、
その迫真性には驚くべきものがあります。このポッドをはじめ映画に登場する他の多くの宇宙工学的造形物を手掛けた
ハリー・ラングには、宇宙で人間が活動するために必要となる機材の工学的な知識と、それを独創的でエレガントな形状
にまで具現化できるデザイナーとしての稀有な才能があったように思えます。
ここで、ちょっと、ポッドのディテールを見てみましょう。
ポッドの球体のあちこちに円錐形のくぼみがありますが、これは宇宙飛行士の船外活動の邪魔にならないよう、
また死角を最小にするよう奥まって取り付けられた遠隔操作用のビデオカメラです。
さらに船外活動を助ける“握り取っ手”も、球体のあちこちに見えます。
球体の両側にある円盤状の冷却フィンのついた全方向姿勢制御エンジンは、白黒のコントラストが鮮やかです。
多関節で伸縮自在なマニピュレーターは、物を把握したまま連続回転ができ、ボーマン船長がディスカバリー号に無事
帰還する際に大活躍します。このマニピュレーターとの位置関係から理論的にその形状が割り出されたと思われる
楕円形の黒いのぞき窓は、テクノロジー満載のこのポッドに不思議に古典的な均整を与えています。
そのディティールのどれもが魅力的です。
今回、スケッチの資料探しにずいぶんネットを検索しましたが、世界で一番愛されているスペース・ポッドなんじゃないか
と確信できるほど、たくさんの画像情報を参考にすることができました。
その中で、このポッドの造形の再現に、並々ならぬ才能を発揮しておられる日本のサイトを二つだけご紹介します。
一つ目は『2001年模型の旅』。このサイトでは映画に登場するさまざまな宇宙船の模型を作製しておられます。
もちろん既成のキットを組み立てるだけの素人製作ではなく、あらゆる映像資料を参考に、パテによる造形は当然、
他の模型パーツからの流用や様々な模型素材を駆使して、素晴らしく精巧な造形をされています。
スペース・ポッドは、アメリカ・アトミックシティ社製のキットを元に現在作製中で、完成が楽しみです。
【2012/01/15追記】作製中だったスペース・ポッドを完成なさいました。 世界のスペース・ポッド関連サイトを今回
巡ってきたヨナデンの感想ですが、沢山ある世界のポッドの模型のなかでも、映像に登場する『実機』に、極限まで
近づいた屈指の造形と断言していいと思います。工作好きで、このポッドに興味がある方なら、この『2001年模型の
旅』のhomeページ上欄の『完成品ギャラリー』をご訪問ください。きっと至福の時間が過ごせると思いますよ。
二つ目は、『知欠ジョーホームページ』。このサイトではおもに建設機械の模型やCGを紹介されていますが、
すでに、2005年にスペース・ポッドのCGを製作されていて、その画像が楽しめます。CGモデリングの際の
苦労話は一切されていませんが、画像を見るだけで、詳細に作りこんであることが一目でわかります。
『エヴァ・デザインを楽しむ 1 』 (極太明朝体と周辺デザインの効果的な演出法)
『エヴァ・デザインを楽しむ 2 』 (六角形パターンとグリッド・デザインの上手さ)
『アトムスーツと太陽の子』 (放射能の脅威と共に生活する時代が来てしまった)
『時空のおっさん仮説』 (時空のおっさんとは、ホントは何者なのか?)